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SS・白銀の狐18
11月も半分ですね!本誌の発売がもうすぐそこですよ。わくてかわくてからんらんるー!
色々と本当水面下でゴソゴソしてるんですが、アレコレやりすぎてアレコレ纏まらない感じです。ぐぐぐぐ。
ちなみに冬の新刊とか、ノベルティは結構良い物をお届け出来そうな…予感です。多分。がんばるっす!

そんなこんなで、いつも拍手ありがとうございます!最近は白銀の狐を再開したおかげか、好きだとおっしゃって頂ける機会が増えて本当うれしいです^^
正直、書くのが難しすぎる世界観なので、書いてる間、心が折れて折れてバッキボキだった分、好きだと言って頂けるだけで本当報われる感じでありがたいです><うきゃー!









白銀の狐 18






『……本当に役に立たない子』

『何も出来ないのね』

『間が悪いったらないわ』

散々耳にした文句に責められて、心が萎むように落ちていく。

「……う…ん……」

あれきり夢の中ですら蓮に会う事は叶わず、京子はがむしゃらに晴明の手記を読み明かし続けていた。
呪いの解き方、かけ方、星の読み方。

けれどもあるのは基本的な心得や初歩的な例文ばかりで今回のような難度の高い術式のヒントになりそうな物はどこにも見つからずに焦りだけが募る。

「もう……朝になっちゃった」

文机に突っ伏して眠っていたおかげでまた頬に服のシワが刻まれている。
あと数時間もすれば、儀式は始まってしまう。

「…………」

京子には思いつく解決法は一つもなく、ただ、出来る事を書き並べたてみた紙には書いては潰した黒い墨の跡が悩んだ数だけ山と並ぶ。

「…………やるしかない」

それでも、守りたいものはたった一つだ。
決意の眼差しで立ち上った後、京子はパンと両の手のひらを合わせた。



***



「ふん。これ見よがしに飾り立てやがって」

龍鳳寺を訪れた松太郎の目に映るのは、さびれた神社の風体を一変させ、まるで祭りの会場のように神社内の枝々に渡る紐に通された無数の提灯と、貴族達の観覧用に設けられたらしい赤い毛氈の敷かれた桟敷席。そして等間隔に配置された右大臣家の家人達だ。

「ったく。さっさと俺の話を聞いて動いてさえいれば、遅れを取る事なんてなかったってのに」

松太郎とて京子に封印を解けと命じたからとはいえ、ただ遊んで過ごしていた訳ではない。

陰陽寮にて最高責任者である陰陽頭に蓮の行いの暴露、そして安倍晴明の陰陽寮からの排斥を直訴していたのである。
けれど、いくら若手の中では有望株だろうと、松太郎の目撃談だけで陰陽頭が話を鵜呑みにする訳もなく、松太郎がどうこの場に陰陽頭を連れ出そうかと目算している隙にまんまとレイノが先んじてしまった訳なのだが。

「裏にも同じだけ突っ立ってるとして、ざっとニ十……ってとこか」

朱色の鳥居の真下に佇む松太郎にこうして簡単に一望出来るのは、ここが本殿を持たず、拝殿が一棟のみしかない小さな神社である故である。たいして広くない敷地をぐるりと見回し、刀を携えて佇む右大臣家の家人の数を数えると、松太郎は水舎や境内の前にある二匹の狛狐像、鳥居といった建造物に術式の気配がないかを探るように見つめた。

「なんだ。ここは稲荷神だったのか。どおりで翔子さんが入るのを嫌がる訳だ」

 神社の外に置いてきた翔子は、確かに狐の天敵である狼のあやかしであるが、翔子自身には狐嫌いの様子がある。どうやら過去に狐と何かあったらしいが、松太郎がそれを詳しく聞いた事は無い。

「外に仕掛けはなんもないな。とはいえ、あと一刻しかないこのタイミングで騒ぎはおこせねぇし」

陰陽術が使えない普通の人間である家人達の仕事は、見物人や会場の警護という名の見張りだろうという事は簡単に窺い知れる。

「ここまで来てよそ者に持ってかれるなんざ、ごめんだぞ」

そもそも、不破という陰陽師の一族は、松太郎に至るこれまでに、代々の当主が二番手、三番手。有能な一門ではあるが大きく名を残した試しは無い。
陰陽師として長く続く良家だからこそ、松太郎には陰陽師として世に名を残すという野望があり、陰陽寮の頂点に立つという野心に溢れている。

「……最後に勝つのは俺だ」

ぐっと拳を握った松太郎は、境内の正面に佇み、レイノの手により錠がかけられたのだろう障子戸を睨み据えると、来るだろう戦いに備え、精神統一するべく目蓋を下ろした。




***



雨乞いの儀式の開始時刻のほんの少し前。

一人、二人と見物人はあつらえられた桟敷席に集い、その中には陰陽寮からやって来た陰陽頭を始めとした松島、椹といった要職者。そして内裏の中枢を担う右大臣。また、噂を聞きつけた貴族、十人あまりが今か今かと時を待っていた。

この中には深く網傘を被り、どこの家の女人とも分からない姿に扮した万里亜の姿もあるのだが、珍しい少女の存在も、御簾の中の女性の姿を男が見る事は許されていないように、網傘の中を窺う行為は無礼にあたる為、万里亜は集団から離れ、神社の水舎の屋根の下で一人静かに佇んでいた。

「……偽物の東宮は不在……か」

松太郎の見渡した限り飛鷹の姿はなく、ふうんと見渡す松太郎の耳には帝到着の報が届く。
一気に物々しさを増した敷地内では帝の来臨に一同は膝を付き、頭を垂れて出迎えた。

「おーおー。結構集まってんじゃねぇか」

ガチャガチャと鎧を鳴らしながら階段前に慌てて整列した右大臣家の烏合の衆染みた家人達とは対照的に、帝が連れている近衛兵はたった一人である事に松太郎は驚いた。

「護衛が一人ぽっちかよ……すげぇ度胸」

口髭を蓄え、ゆっくりと歩いてくる壮年の男。派手な金糸の刺繍があしらわれた紫の狩衣に大きな羽扇を携えている。
かたや絽織帝が連れ立つ近衛兵は闇に溶けてしまいそうな紺色の衣に腰には刀を下げているのだが、家紋以外に装飾はなく、いたって地味な装いだ。
右腕にはなにやら大きな傘を持っているのを見てとった松太郎は、じっと目を凝らすが、霊力的な物は感知出来ず、どうやら近衛兵は普通の人間であり、持ち物も問題ないなと悟る。

派手な衣を纏う帝の影にいるからだろうか、やたら顔立ちの整った美形な男であるというのに気配は薄く。少々色の濃いエキゾチックな面持ちをしているあたり、大陸の人間の血が混じっているのかもしれない。

「って、おいおいっ」

近衛兵は境内をぐるりと囲むように誂えられた桟敷席の中で少しだけ高く作られた上座の席の後ろに立ち、手にしていた大きな赤い傘をボンと開くと涼しい顔で土の中に柄を埋め込み、日陰を作ったそこに敷布を置くと帝をいざなう。

「帝、本日はこのような場でご足労賜りまして」

その帝よりも年嵩である右大臣が挨拶をすると、絽織帝は「あー、いい、いい」と面倒くさそうに追い払い、で? お前んとこの術士はどいつだ? と問う。

「……そ、それが……」

まだ来ていない事は明白だったが、右大臣はなかなかに言い出し難いのだろう、言いよどんだ口振りに松太郎は意を決し、申し上げますと声を上げた。

「なんだ、お前は! 陰陽寮の術士ごときが口を開くなどおこがましいにもほどがあるぞ!」

右大臣は騒いだが、この程度で不敬を取るような帝であるならば、こんな辺境へ、それもたった一人の供だけを連れて出て来たりはしないだろうという目論見がある。

「あー。いい、いい。……構わん。申せ」

「はい。恐れながら、雨ならば私にも降らせる事が出来る所まで原因は突き止めております。芦屋道満が定刻に参じていない以上、待つ必要はないと考えます」

「ほう……それは陰陽寮の総意か?」

松太郎の後ろへチロリと視線を投げた事で泡を食った陰陽頭が飛び出して「大変失礼を致しました」とひれ伏してしまう。

「陰陽頭様! 昨日申し上げました通り、私にやらせて頂きたい!」

「不破! 帝の御膳であるぞ」

「っ!」

ここで松太郎が解決してしまえば、全てにおいて形勢は松太郎に優位に動くはずであった。

「……後からやって来ておいて、自分の手柄にしようとは、陰陽寮という所はずいぶんと狡い考え方をお持ちのようだ」

「っ!!」

まるで松太郎を嘲笑うかのタイミングで到着したレイノが声を上げた。

「遅参申し訳ございません」

「遅いではないか! 道満っ」

右大臣が慌ててかけより、帝は悠然と腰掛けた椅子にもたれかかっている。

「少々、支度に手こずりまして」

そう口にするレイノは涼しげな顔で遅刻の理由を口にし、きちんと着込んでいる黒い法衣の袖口からは赤い色の数珠を幾重にも右腕に巻かれている事が窺える。

「ふっ、生憎だったな」

松太郎の行為を皮肉るようにレイノが薄く笑い、不快感に顔を歪ませた松太郎は小さく舌打つ。
レイノの弱みとなる真名を握る松太郎とこの場でのリードを奪っているレイノ。視線だけで交わされる無言の攻防も、周囲に大勢の人間がいる為にこれ以上の発展はしない。

「では、これより雨乞いの議を始めさせて頂く」

レイノの宣誓により、晴れ渡った空の元では一同に総じて緊張感が駆け抜けた――。



***




レイノが境内の扉を開けようと手をかざし、解錠の呪を唱えているその時。松太郎は憮然とした顔で後ろ姿を眺め、また、陰陽寮の要職者達は、自分達の威信が崩されてしまうかもしれない恐怖にさざめき立っていた。

「安倍晴明はまだ来んのかっ、椹っ」

「必ず間に合わせるようには念を押したのですが」

いまだに姿を見せない蓮に苛立ちを隠せず、ひそひそと小声で慌てているのは陰陽寮の首脳陣である。

「……まさか、本当に不破の報告にあった通り、晴明が一連の犯人なのではあるまいな……」

「いくらなんでもそんなバカな……」

「だが。ではなぜに晴明は姿を見せないのだ」

少しばかり離れた位置に立つ松太郎は、自らの保身に走り出そうとしている陰陽頭にひっそり呆れながら目を逸らしている。

これから陰陽寮内で起こるだろう今回の日照り騒ぎの原因究明による晴明への弾圧と、晴明の行為を許してしまった責任問題の擦り付け合い。
出来る限り、自分に火の粉が降りかからず、なおかつ昇進を狙える立ち位置を見定めねばならない。

「ったく。宮勤めってのは面倒なもんだぜ」

ギイイと木が擦り合う音を耳にしながら、 帝の様子を窺い見ると、絽織帝はなにやら思案顔で肘置きに体を預け、頬杖をついてレイノの行動を見守っている。

「ほう……」

扉が開き、薄暗い室内を一同が瞳を凝らして窺うも、光明の加減で中の光景は誰にも見えない。
全員が暗がりに集中しているその時、背後からジャリ……と砂利道を踏みしめる足音が響いた。

「遅くなりました――」

「…………な……に……?」

松太郎の耳に届いたのは、この場所に現れるはずのない男の美声。

「安倍晴明。陰陽頭様の召集により、只今まかりこしました」

目を見開き、ゆっくりと振り返れば、神社の鳥居。その真下には陰陽師の正装に身を包み、微笑を浮かべた蓮が立っていた――。



***



遅いではないかと詰りながらも、蓮が現れた事に安堵する陰陽寮の面々は、ちょうど今から始まる所だと蓮を自分達のいる桟敷席の方へと招き入れ、対面側を立ち位置とする絽織は読めない表情で松太郎の前を通り過ぎ、桟敷席へと歩く蓮を見つめている。

「……ちっ」

一体いつの間に帰ってきたのか。神社の外に待機させている祥子からはなんの知らせも入らなかった松太郎は、出し抜かれたような不快感に眉を顰めた。

「……だが……」

チラリと境内に視線をやると、扉の前で佇むレイノも蓮が現れる事が予想外だったのだろう。
普段は崩れる事のないだろうすまし顔にも驚きが浮かんでいる。

晴明の登場に触発されたらしく、見物人それぞれが口を開きざわつく神社の庭先。この雑然とした状況を一変させたのはパンパンという帝の両手を打つ音だ。

「どうやら役者は揃ったようだな」

ふふんとばかりな得意顔で全員をぐるりと見渡した後、絽織帝はさてと前置きをした。

「上杉の申し立て通りならば、今日、芦屋道満がここで儀式を執り行えば神々の怒りは鎮まり、雨を降らせる事が出来る。という話だったな?」

鋭い眼力がチロリと右大臣を見やると、少々気圧された右大臣、上杉虎徹は一つ咳払いをすると神妙な面持ちで左様でと答える。

「だが、そこなる陰陽師」

「はっ」

ツイと視線を逸らした絽織は松太郎を呼び、松太郎は先ほどまで顔を見上げる事すら許されなかった最高権力者に正面から見られる緊張で喉を鳴らした。

固い表情の松太郎を尻目に、絽織が右手を持ち上げると、背後に控える近衛兵が銀細工の光る笏(しゃく)を手渡し、絽織はそれをタスタスと手のひらに叩くようにして弄んだ。

「お前も雨を降らせる事が出来る。そう言ったな?」

「確かに申し上げました」

「……ほう」

低い声は至極興味深そうに呟く。

「俺は陰陽寮に『雨を降らせよ』と命じたはず……だな?」

はて、これは一体どういう訳だと怜悧な言葉は空気を震わせる。

「もっ、申し訳ございませんっ」

絽織の放つ覇気に当てられ、陰陽頭が低頭で叫ぶ。

「……だから?」

それじゃあ分かんねぇだろと淡々とした、けれど不快指数の高い声は追う。

「この者はまだ修練途中の陰陽生、かような大口もご容赦頂きたく存じます」

「なっ! 俺は嘘は言ってないっ! だいたいっ、俺が陰陽生だから力不足だって言うなら、アイツだって天文生。俺と官位は変わらねえひよっこじゃねぇか!」

まるで見栄から出た虚勢であるかのような言われように納得のいかない松太郎が声を荒らげると、絽織はクックックと喉を鳴らして笑う。

「確かにそうだな。お前も晴明も官位の上ではまだまだ下層だ」

「……くっ」

「それで? お前はどうやって雨を降らせるつもりだったんだ?」

迫力のある声が松太郎を捉えて先を促す。
ここで間違えなければ松太郎にチャンスが回ってくる上、一気に実力者としてのし上がる事が出来る。

「そこの右大臣様お抱えの陰陽師が鍵をかけていた拝殿の中。その中にこそ都から雨を奪っていた術が存在しています」

静かに口にした松太郎とは反対に、一気にざわついた外野はレイノに疑惑の眼差しを向け、それに最も慌てたのは上杉虎徹であった。

「おやおや。そこの名も知られていないような陰陽師が、儂の雇うた道満を疑おうとでも言うのかの」

けれどもそこは海千山千の政治家。白髪交じりの老人は動揺など微塵も見せずに松太郎を睨む。

「さて? 私は鍵をかけたのが芦屋道満だと申し上げただけですが」

松太郎がそれ以上でも、それ以下でもなく、ただの真実だと言えば、レイノが指先で前髪を払い、ふうと聞こえる大きさで溜め息を吐いた。

「今日、今ここで満たされた条件の上でなければ儀式は成立しない。だからそれまで誤って何人も入らないように鍵をかけた。俺の行動に問題はない」

「――ちっ」

鷹揚に構えているレイノと視線を交わし、無言でやり合う松太郎とレイノだが、松太郎に真名を握られているレイノが僅かに出遅れた一瞬の隙に松太郎が言い放つ。

「何が原因かだなんて、中に入ってみれば分かるんだ。さっさと先に進め。芦屋道満」

「……ふん」

レイノは松太郎を睨み付け、それから緩慢な動作でその横の集団へと視線を移した。

「不破の言う通り、『何が原因』かは中に入れば一目瞭然。……なぁ。晴明」

泣き黒子のある瞳がすううと細められ、安倍晴明に対し勝ちを確信して揺るがない男二人はそれぞれにニヤリとした笑みを浮かべている。

すでに、松太郎とレイノはそれぞれがどう相手を出し抜くかという頭脳戦へと移行しており、安倍晴明が追い落とされる瞬間が近づいてきた事にほくそ笑んでいたのだ。

「さて、何を言いたいのか。私には分かりかねるな」

けれども余裕のある態度を崩さない蓮に、松太郎もレイノも一度浮かんだ笑みを引っ込めた。
間違いなくこの中で最も高位の術を使いこなすのは蓮なのだ、蓮が余裕のある顔をしている以上は気が抜けない。

「では皆様。中へとお進み下さい」

レイノの案内に一同は拝殿の中へと足を向けた。










あと4~5回で終わりまで行きますので、お付き合い頂ければうれしいであります!

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