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SS・魔女の葛藤

奏江メインのお話です。






魔女の葛藤






2月14日も目前に迫ったその日。
琴南奏江は自宅近くのよろず屋、製菓コーナーの一角にいた。

「有り得ない……」

日中は常時賑わっているよろず屋だが、深夜にほど近い時間なだけあって、奏江の他に客は見当たらない。
もちろん、ストールに伊達眼鏡といった変装も行ってはいるが、そもそもの人影がないおかげで、自分が女優、琴南奏江だとバレる心配はないと気を緩めた奏江は仁王立ちで困り事に直面している。

「なんで置いてないのよ」

奏江が探し求めていたのは混ぜるだけで簡単に作れる製菓キットの類。
つまりはバレンタインの菓子を作る為の材料だ。

「もーっ!買い占めたのはどこの馬鹿よ!」

まるで図ったかのように手作りキットだけがきれいさっぱりと売り切れた空の棚を前に、奏江は頭を抱えた。

「わざわざ来たっていうのにモォォっ!忌々しいっ!」

14日までのスケジュールを考えれば、通常のスーパーの営業時刻には買い物をする時間が取れない。
よろず屋とて特設コーナーに行けば完成品のチョコレートもあるにはあるが、今回の目論見的から言えばそれで済ませる事は望ましくなく、奏江は柳眉を顰めた。

「……既製品じゃインパクトに欠けるのよね」

さんざん絡んできたバカ男にガツンと分からせる為にも、見るからに手作りの品物を飛鷹にだけ手渡したいのだ。
飛鷹をあてつけのように利用する事には少しだけ良心が痛まないでもないが、理解がある飛鷹ならば、説明せずとも意図を汲み取って受け取ってくれるに違いない。

「と……いう事は……」

計量が必要な板チョコや生クリーム、ラッピンググッツなどはまだ豊富に揃っており、奏江にこれらが使いこなせたならば、きっとなんら問題はない。

ないのだが。

まがまがしいまでの女子オーラを放つチョコレート売り場をチロリと眺めた奏江はふうと溜め息を零す。

「出来る気がしないわ」

菓子など作った事がないのだから、一から作って成功する自信はかけらもなく、素直に白旗を掲げる。
けれどもなんとか用意しなければならないのだから、残された選択肢は、インターネットで作り方を検索をしてみるか、板チョコに付けられているおまけのような小さなレシピに沿ってやってみるしかない。

「気が乗らないわね……」

他に奏江が頼れるところと言えば、こういった事をやらせればそこらのパティシエ顔負けの腕を持つだろう友人――キョーコの存在だ。

「ふうう」

ここは一人でレシピを解読しながら戦うよりも、道連れを作った方がはるかに効率が良い気がする。

「――頼んでみようかしら」

めったに頼み事をしない自分の願いだ。嫌な顔をする事もなく――むしろ常日頃から暑苦しいまでの親愛を向けてくれるキョーコの事だ。他人に聞かせたならば自惚れが過ぎると言われるかもしれないが、奏江と過ごす時間が取れると喜びさえするのではなかろうか……とは思う。

『モー子さんの為ならなんでもするする!お菓子作り?任せて任せてー♪』

「……本当にもう……」

『モー子さぁぁん!こんな感じでどうっどう!?』

ハートを飛ばしまくってキョーコが飛び跳ねている姿が脳裏をよぎる。

『うふふ、モー子さん、モー子さぁん!』

「あーもうっ、分かったわよ!」

想像の中のキョーコのハイテンションぶりに、頬を軽く染めた奏江が、誰に見咎められた訳でもないが気恥ずかしさから咳払いを一つ。

「全く……」

けれども、駆け出しとはいえ芸能人。互いにそう暇を持て余した身ではなく、時間を合わせるならばやはり夜になるだろう。

「……こうなったら仕方がないわね」

作る場所は奏江の自宅でよしとする。
けれども、そうなるとチョコレートを作り終えた後、キョーコを深夜に一人で下宿先へ帰らせる事になってしまう。

奏江はチョコレート作り用の板チョコやナッツやココアパウダーといっためぼしい物をいくつか掴むと無計画にカゴに放り込んだ。

「さて。つぎは」

買い物カゴを片手に、上を見上げた奏江は、目的の売り場を探してコツコツと店内を歩む。

「あれは……」

キョロキョロと見渡しながら、途中、ショッピングカート置き場を見つけると、一台を手に入れ、手持ちのカゴを下段に乗せる。
カラカラと押しながら目的のコーナーにたどり着くと、奏江はあたりを見渡した。

「……枕とシーツと毛布……」

寝具コーナーに相応しく、全てが揃っているそこで次々と選ばれていくのは寝具一式。
それらも可愛らしい色合い、柄物になっていくのは、使わせる人物の趣味を把握していてこそだ。

「寝心地が良いのはやっぱり羽毛……かしら」

それだけ呟くと迷う事なく一番高額な布団セットをカートに乗せた。

「これでよし……と」

かくして、奏江は深夜料金のタクシーで帰宅する事になるのだが、琴南奏江宅における始めての客用布団は、2月12日、最上キョーコが使う事となるのであった。







奏江は軽くお泊りのお誘いをして、キョーコはものっすごい喜びちぎっていた訳ですけど、え?奏江さんち布団あるの・・・?って考え始めると、もう、キョーコの為に購入してくれたとしか思えない訳ですよ!という話。
モー子さんって、キョーコの事、大好きだよね。
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