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【サンプル】おいしいコーヒーをのみませんか
インテックス大阪で出した2016年夏、コピー本サンプルです。

蓮→←キョ、全年齢、本文17P、A5二段組といういつも通りの作りです。
次は冬にオフ本出せたらいいなぁと思いながら、去年からパソコンがブルースクリーン出てるのが、いよいよ連発でして・・・。
まずはパソコン買い換えるところからっていうハードルの高さ・・・白目。
0は一個少なければいいのになぁw







おいしいコーヒーをのみませんか







ある朝、少女は駅構内のある一点を見つめて静止した。

それは不意をつくように網膜に飛び込んできた情報ではあったのだけれど、少女――最上キョーコにとっては決して見逃す事など出来るはずもない代物だったのだ。
見開いた眼差しは、まさしく一言一句、四隅すべてにしっかりと目を通し、掲示された情報を目蓋の裏にこれでもかと焼き付けている。

キョーコを乗せてきた車両はとっくにホームを出発し、同じ電車を降りた乗客達もすでに地上の改札階へと消えている。
いっそ携帯電話で写真を撮影しても良いような状況ではあったが、記憶力の優れた彼女は必要な情報を全て頭に叩き込むと、ようやく何事もなかった顔で改札階への階段を上っていく。
その後ろ姿はどこか嬉しげにも見えるのだが、残念ながらその姿は誰にも見られる事はなかった。

***

BOXRの撮影もいよいよ終盤というところで、スタジオは熱気に包まれている。
朝一番からすでに撮影に入っていた天宮千織は、出番待ちの間に台本の変更箇所を確認していた。
「天宮さん、お疲れ様です!」
「あら、京子さん。お疲れ様、今日は早いのね」
キョーコの挨拶に反応して顔を上げると、そこには缶コーヒーがいくらか入ったビニール袋を持ったキョーコが立っている。
「これ、差し入れなんですけど、無糖と微糖とオリジナルブレンド。良かったらどれか召し上がりませんか? 今ならけっこう冷えてますよ」
「ありがとう。じゃあ微糖を頂こうかしら」
良かったらマネージャーさんにもと言われ、流されるままに二本受け取った千織が「これ、京子さんからなの?」と不思議顔で問いかけると京子が「あまり高価な差し入れじゃありませんけど」と笑う。
確かに撮影現場にはスポンサーや事務所、また役者本人からの差し入れはよくある事で、差し入れ置き場はもっぱらケータリングや宅配である程度の山が出来ているものだ。
「でも、それって持ってくるの結構重かったんじゃない?」
「いえいえ、そうでもないですよ。思いついたのが今し方でしたから局内で買いましたし」
ふふふと笑顔のキョーコだが、どうやら持参したらしいコーヒーは生真面目に全員に行き渡る量という訳でもなく手荷物として無理のない範囲だったようだ。
つまり、なくなる前に私にすすめに来てくれたのねと、キョーコからの親愛の情を察した千織は、悪くないわねとほんのりした優越感を抱きながらプルトップに指をかけた。
「撮影どうですか?」
「んー、予定より1カット押しってとこね。まずまず順調」
進行状況を伝えると、キョーコは良かったと微笑む。
「では私、一旦着替えに行ってきますので」
「ええ、いってらっしゃい。これ、ごちそうさま」
キョーコを見送った千織は、ほのかに甘いコーヒーを一口呷り、再び台本へと向き合った。

***

BOXRの撮影を順調に終えた明くる日。
キョーコはスケジュール確認のため、午前中のうちに事務所に立ち寄るようにという呼び出しを受けており、そして偶然にもラブミー部部室に私物を取りに立ち寄ったところの奏江を見つけた。
「モォォコさぁああんっ!!!」
「ちょっ! 声が大きいっ!」
もれなく廊下中に響き渡るほどの歓喜の声で奏江に駆け寄ったキョーコは、叱り返した奏江の後を仔鴨の行進よろしく、満面の笑顔で追いかけている。
「もうっ、アンタって娘はところ構わずなんだからっ、恥ずかしい!」
「ごめんなさぁあい、久しぶりのモー子さんが嬉しくってぇ……っ」
例によってなんの辱めだと怒る奏江に対して、ニヘラァと笑み崩れたキョーコは偶然奏江に会えた幸せを満喫している様子だ。
そんな訳で出来るだけ早足で現場から立ち去ろうとした奏江に「待ってよ、モー子さん」と声をかけても足を止めてくれるはずもなく、競歩で部室にたどり着いた奏江が、自身の用件を済ませ、バタンとロッカーを締めたところでようやくキョーコは正面から奏江と視線を合わせる事が出来た。
「ああ、怒ってるモー子さんも美人だなぁ」
嘘偽りのない心の声はだだ漏れで、いっそすがすがしいキョーコの本音は見事に奏江の怒気を萎えさせる。
「アンタって娘は……」
呆れ顔の奏江にキョーコはニコニコとするばかりで一層脱力感が否めない。
こうなれば、いよいよデコピンの一つでもお見舞いしてやろうかしらと奏江が思い至ったところで、奏江から放たれる不穏なオーラにようやく気付いたキョーコがハッと弾かれたように反応した。
「あっ、そっ、そうだ、モー子さんっ。良かったらコーヒー飲まない?」
「はあ?」
物で機嫌を取るつもりなのかと奏江が怪訝な表情を見せると、キョーコは更に慌てたように微糖が駄目なの? あっ、ブラックもあるんだよと鞄を漁る。
「いや……そういう意味じゃ……」
「あとはオリジナルブレンドもあるんだけど」
部室の冷蔵庫で冷やしておくから好きなの飲んでねと言うキョーコに奏江の疑念は頂点に達した。
「だーかーら。コーヒーはいらないわよ! っていうかなんで鞄からそんなバカみたいに缶コーヒーが何本も出てくるわけ? 仮にもカインドーのCF貰った経験のある人間が、他社を押すのはどうかと思うんだけど」
コンコンコンと手近な棚の上に三本並べられた缶コーヒーに完全に困惑させられた奏江に対し、大丈夫でしょと笑い飛ばし、最近コーヒーに凝ってるのよねと笑顔を浮かべたキョーコは、私はオリジナル飲もうかなと言いながら鞄の中からさらにもう一本を取り出す。
四本目!? とこれまでにない事態に奏江が驚愕している隣でキョーコはカシュンとプルトップを持ち上げた。
「……って……ちょっと待って。このメーカーって確か」
ゴクゴクと飲んでいるキョーコの姿を注意深く観察した奏江は、最近放送されている一つのCMを思い出した。

『お疲れ、食事行く前に一息入れようか』

さしてテレビを見ない奏江にも思い出せる程度には頻繁に流れている大手企業のCMキャラクターは――。
「たしか、敦賀さんがCMしてたわよね」
「ゴフウウ!!」
「ちょっ、ちょっと!大丈夫?!」
ゴホゴホと盛大に咳き込んだキョーコの背中を弟妹にするようにトントンと宥めてやりながらも奏江は記憶を辿る事は止めない。
「……このシリーズって今、応募シールが付いてるんじゃなかった?」
そういえば奏江の撮影現場でも絶対欲しいと息巻いていたスタッフが居たはずだ。
「いやいや、敦賀さんなんて関係な……」
しかし、目の前の缶コーヒーに応募シールが残されていない以上、奏江にはすでにキョーコが確保済みだとしか思えない。
盛り上がっていたスタッフが口にしていた商品の名前は……。
「特賞は敦賀蓮ボイス入り目覚まし時計」
「ななななな……なんの事かしら」
明らかに目は泳ぎ、うろたえている。
「アンタ。やっぱり敦賀さんの事……」
「イヤーーっ!!! 違うのっ違うのよ!!!!」
「なにが?」
この有り様のキョーコを見て、聡い秦江にピンと来ないはずもなく。キョーコが抱いている恋心に確信を覚えた奏江が追い詰めにかかるが、キョーコは頑として否定を続けた。
「違うのよ! だって、敦賀さんの目覚まし時計なんてそんな心臓に悪い物を狙ってるはずがないじゃないっ!」
「いやいや。だから、なにが心臓に悪いのよ」
「だって朝一番から敦賀さんの声で起こされるなんて、普通に有り得ないでしょう!?」
そんな事になれば毎朝悶え殺されるに決まっていると分かっていても諦めがつかず、ついついコーヒーを買い集めているのが正直なところだが、キョーコはそれを口に出して認めてしまうわけにはいかない。
「そっ、そうっ、当たったらマリアちゃんへのプレゼントにしようと思って! クオカードだったら使っちゃえばいいし!」
 支離滅裂とも取れる理屈を捏ねて、キョーコは恋を否定する。
「……ああ、そうなの。当たると良いわね」
「でしょう? だからモー子さんも良かったら協力してね。あっと、いけない、私そろそろ椹さんのとこに行かないと!」
「そう。行ってらっしゃい」
「うんっ、行ってくるね!」
これ以上はここにはいられないとばかりに慌ただしく走り去るキョーコの後ろ姿を奏江はじっと見つめる。
「認めちゃえばいいのに」
感情が芽生えたならば、育てる事で役者としての力にもなる。
きっとキョーコ自身にもそれは分かっているだろうにと秦江は思う。
「まあ、私が口を出す事じゃないのよね」
 あっさり引いたのも、これはキョーコの問題だという割り切りからだ。
 秦江とて心配はしている。けれど手を貸して取り持てるようなポジションにいる訳でもない上、そもそも自分から手を出すようなお節介な性分でもない。
 これ以上は考えても無駄かしら。そう思った秦江が自分も部室から出ようとしたその時、部室の扉をノックする者が現れた。
秦江のどうぞという返事に反応して扉がガチャリと開かれる。
「失礼致します」
やってきたのはドアノブの高さと変わらないくらいの身長をした少女、宝田マリアだ。
「あら、おはよう」
「おはようございます。お姉さまはお留守ですか? いらしていると伺ったのですけれど」
戸口近くで出迎える形になった奏江の挨拶に応えた端から、キョロキョロと室内を見渡すマリアに「ついさっき椹さんのところに行ったところよ」と教えると、マリアはそうですかと納得し、それならそれでと奏江を見上げた。
「なにか?」
キョーコを慕うマリアだ。伝言だろうかと耳を傾けると、マリアは一つお願いがありましてと訴える。
「まずは持って参ります」
「?」
一旦扉の向こうに消えたマリアは、廊下に停めておいたらしい小さな台車を押して室内へと戻ってきた。
「……貴女もなのね……」
「えっ?」
台車で運ばれている物の正体を見定めた奏江は思わず柳眉を寄せる。
「それを引き取って欲しいっていう事かしら」
「え、ええ。お小遣いを全部遣ってしまった事がおじい様にバレてしまうと大変困りますので……ですけど……」
三箱に及ぶ缶コーヒーの銘が入ったダンボールに、マリアの事情を看破した奏江は、傷むものでもないし、置いておけばいいんじゃないと答えるが、マリアの方は『貴女も』の一言に反応していた。
「ああ、あの娘もそのコーヒー、買っていたからよ」
「まぁっ! お姉さまも!」
競争相手が増えると不満顔の一つでも浮かべるかしらという奏江の予想を裏切り、マリアはやっぱりお姉さまも蓮さまの良さには惹かれずにいられないのですね、うんうん、仕方ないですわね、蓮様ですもの。となにやら納得顔だ。
「そういう事でしたら、私がこれを置いていくのはご迷惑になりますわね」
チラリと見るのはダンボールだ。しかも三箱。
「いいんじゃない? ここに出入りするのはあの娘だけじゃないし」
と、自分を含め、千織も頭数に入れた秦江が「困ってるんでしょう?」と問うと、マリアは「はい」と正直に頷く。
「自分で飲めもしないものを応募シール目当てに大量に購入する行為はいかがなものか……とおじい様には注意されていたのですけど」
それでもなお、どうしても我慢が出来なかったのだと言うマリアに、奏江は事務所の愛孫なのだから裏で貰えば良かったんじゃあと不思議顔で問う。
「まあ! 意外とファン心理が分かっていない方なのね。こういう物は不正を行わず、自分の手で手に入れるからこそ、より尊さが増すというものなのですよ?」
「まあ……分からなくはないけれど」
「なんでもかんでも裏ルートで、なんて。ファンとしては邪道ですもの。きっとお姉さまも同じお考えだと思います」
「……はぁ……」
だから私はお小遣い(ちから)の限り応募シールを集めるのです! と熱く語るマリアに奏江は少々引いた。
ひょっとしなくても、自分に足りていないのはこういう暑苦しいまでの情熱なのだろうか。
「という訳ですから、貴女が興味をお持ちでないなら、消費に協力を頂けますと助かります」
「はあ……」
「それでは、私はお姉さまにご用がありますので、これで失礼致しますわね」
「いやいや。台車は持って帰りなさいよ」
「ああ、忘れるところでした」
しっかりしているのか抜けているのかといったマリアを見送った奏江は、どうして朝からこんなに疲れる事になるのかしら、と大きな溜め息を吐き出して、キョーコが置いていった缶コーヒーを一本、鞄に入れて部室を後にした。



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